B2Bのターゲティング|TAM・SAM・SOMで獲れる件数を決める
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目次
これから売り出す新サービスのターゲットの市場規模を、数字で把握していますか。
市場規模と伸びで、取れるシェアの上限と成長の速さは先に決まっています。ここが曖昧なまま営業リストや広告を走らせると、「頑張ったのに伸びない」の原因が施策なのか市場なのか、最後まで分かりません。
市場規模を3段階で見る枠組みが TAM・SAM・SOM です。市場全体(TAM)、自社が届く範囲(SAM)、実際に獲れる範囲(SOM)。用語は知らなくて大丈夫です。この記事は、この3つをB2Bの実務で使う手順を、政府公式のオープンデータ(経済センサス、EDINET)の実データで通します。題材は東京都のIT系業種。各節末尾の「ツールで確かめてみる」で、同じ数字をTAM/SAMダッシュボードで自社の条件に置き換えて試せます。
この記事で身につくスキル
- ターゲットの根拠を「勘」から「数えた事業所数」に変え、数字で説明できるようになる
- 候補セグメントを2案並べ、頭数・金額・重複の3面で比べられるようになる
- 重複を除いたリスト件数と、獲れる件数(SOM)の試算まで出せるようになる
この記事の結論
- TAM → SAM → SOM は市場規模から固定する。TAMは業種と規模で範囲を決め、地理だけ全国に広げると扱いやすい
- SAMはTAMに商圏をかけたもの。カバレッジ率(SAM ÷ TAM)は「地理のカバー率」になる
- 候補は決め打ちせず、6Rに沿って頭数・地理・カネ・推移で比べる。件数で勝る市場と金額で勝る市場は別物
- 重複(A∩B)はカニバリ管理の対象。重複を一度だけ数えたユニオンが実リスト件数
- SOMは統計からは出ない。シェア仮定と営業キャパの逆算で試算する
TAM・SAM・SOMとは
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| TAM(Total Addressable Market) | 製品やサービスが理論上獲得しうる市場の全体 |
| SAM(Serviceable Available Market) | TAMのうち、自社の製品・販路・商圏で実際に届く範囲 |
| SOM(Serviceable Obtainable Market) | SAMのうち、競合や自社の営業力を考えて現実に獲得できる範囲 |
| ICP(Ideal Customer Profile) | 理想の顧客像。売りやすく、長く付き合える顧客の条件 |
| カバレッジ率 | 対象の市場のうち、自社の範囲がどれだけを押さえているかの割合。SAM ÷ TAM で計算する |
| 6R | 候補セグメントを評価する定石の6基準。Rank(優先順位)・Realistic(規模)・Reach(到達)・Response(測定)・Rate(成長)・Rival(競合) |
3つは入れ子で、SAMはTAMの一部、SOMはSAMの一部です。STP(セグメンテーション → ターゲティング → ポジショニング)のうち、この記事が扱うのは「ターゲティングを数字で決める」部分です(区切り方は[B2Bのセグメンテーション:公開時にリンク]、全体は[STP分析タグページ:公開時にリンク])。数字の後ろの(基礎調査)(EDINET連結)はデータの出どころで、末尾にまとめています。
1. 市場規模から決める:TAM(市場全体)の範囲は「業種と規模で決め、地理だけ広げる」
考え方
最初に決めるのはリストではなく市場規模、つまり狙う市場に顧客になりうる事業所が何件あるかです。「リストが2,000件ある」は、市場が3,000件なら十分で、30,000件なら足りない。順番はTAM → SAM → SOM、外側から固定します。
つまずくのはTAMの範囲です。資金調達の資料でよく見る「全世界・全業種」は広すぎて、自分の商圏が何%かに意味がなくなります。B2Bでは、業種と従業員規模はICPで固定し、地理だけを全国に広げた市場をTAMとするのが扱いやすい。TAMとSAMの違いが地理だけになり、カバレッジ率が「全国市場の何割を押さえているか」の一つの意味になります。
実データで見る(東京都 × インターネット附随サービス業 × 従業員50人以上)
- SAM(東京都):489件・144,251人(基礎調査)
- TAM(全国 × 同じ業種 × 同じ規模):828件・201,445人(基礎調査)
- カバレッジ率:事業所 59.1%、従業者 71.6%
東京だけで事業所の6割、従業者の7割に届く。裏返せば、地理を広げても残りは4割しかない、ということも同時に分かります。
ツールで確かめてみる 単一表示で商圏=東京都、業種=インターネット附随サービス業、規模=50人以上にすると、事業所数と「全国カバレッジ」が出ます。
2. SAMはICPの翻訳:中分類・従業員規模・商圏
SAMは、ICPを統計で数えられる3条件に翻訳して決めます。誰が買うか → 産業中分類、予算と決裁の構造 → 従業員規模(単位は事業所の常用雇用者)、営業が届く範囲 → 商圏(市区町村)。ICPの決め方(既存顧客の結果から逆算する)と区切り方の詳しい考え方は[B2Bのセグメンテーション:公開時にリンク]で扱います。
核のSAMは489件(基礎調査)。インサイドセールス2〜3人なら1年で一巡できる規模で、もっと件数が要るなら隣の業種を足すしかない。候補は2つです。
- A案:インターネット附随サービス業 + 広告業(デジタルマーケの予算を持つ相手)
- B案:インターネット附随サービス業 + 情報サービス業(受託開発・SIer)
ツールで確かめてみる A案の条件を作って「Aへ保存」、B案に変えて「Bへ保存」を押すと、次の節の比較ができます。
3. 候補はA/Bで並べる:まず事業所数と従業者数
考え方
候補を1つに決めてからリストを作ると、「もう一方はどうだったのか」に答えられません。2案を同じ物差しで並べます。物差しは6Rに沿い、頭数(Realistic)をこの節、地理(Reach)を§4、カネ(Rival)を§6、推移(Rate)を§7で数字にし、獲れる件数で順位(Rank)を決めます(§8)。重複(§5)は6Rにはないリスト設計の確認です。
実データで見る
| 基礎調査 | A案:+広告業 | B案:+情報サービス業 | B/A |
|---|---|---|---|
| 事業所数 | 755件 | 3,140件 | ×4.16 |
| 従業者数 | 200,588人 | 780,333人 | ×3.89 |
2案は489件(インターネット附随サービス業)を共有し、A案から見ると266件(広告業)を外して2,651件(情報サービス業)を足した組み替えです。B案は事業所数で4倍ですが、市場が大きいほど届かない相手も増えます。地理・重複・金額を確かめてから決めます。
ツールで確かめてみる A/B比較タブの「判定サマリー」と「KPI対比」。
4. TAMを重ねて「地理カバレッジ」を比べる
同じ東京都でも、業種によって「全国市場のどれだけが東京にあるか」は違います。候補ごとにTAM(全国 × 同じ業種 × 同じ規模)を出してSAMと比べると、地理を広げる余地が数字で決まります。
| 基礎調査 | A案:+広告業 | B案:+情報サービス業 |
|---|---|---|
| SAM(東京都)/ TAM(全国) | 755件/1,277件 | 3,140件/6,396件 |
| カバレッジ率(事業所) | 59.1% | 49.1% |
| カバレッジ率(従業者) | 72.4% | 57.1% |
広告業は東京集積が強く、東京だけで全国の6割。情報サービス業は半分が東京の外にあり、B案を選ぶなら大阪・愛知・福岡へ広げる余地が大きい。
ツールで確かめてみる A/B比較の「TAMを重ねて表示」で、SAMの円の外側に全国の点線円とカバレッジ率が出ます。
5. 重複(A∩B)はリストと広告のカニバリ管理そのもの
2つのセグメントはたいてい一部が重なります。放っておくと、同じ相手に営業が2人つく、広告が2本当たる、同じ事業所を二重に数える、の3つが起きます。
A案のみ266件、重複489件(A案の65%・B案の16%)、B案のみ2,651件、重複を除いた合計(ユニオン)3,406件(基礎調査)。
- リストの実数はユニオン3,406件。755+3,140件ではない
- 重複489件は一方の担当に寄せる。営業のテリトリーも広告の除外設定も、ここを境に決める
- 名寄せのキーは法人番号。統計は事業所単位、リストは企業単位。規模構成は両案とも50〜99人が45%前後、300人以上(2割弱)はABMで別建て
ツールで確かめてみる ベン図の下の「Aのみ/重複/Bのみ/ユニオン」と「規模構成の対比」。
6. 市場は「頭数」と「カネ」の二面で見る
事業所数(頭数)はリストの長さを、そこにあるお金(カネ)は単価と予算の存在量を決めます。カネは、商圏に本社を置く上場企業の有価証券報告書(EDINET)で見ます。
| EDINET連結・上場企業の合算 | A案:+広告業 | B案:+情報サービス業 | B/A |
|---|---|---|---|
| 上場企業数 | 346社 | 460社 | ×1.33 |
| 売上高合計 | 30.5兆円 | 41.7兆円 | ×1.37 |
| 販管費合計 | 5.3兆円 | 9.0兆円 | ×1.70 |
| 販管費率(中央値) | 37.7% | 34.5% | ×0.92 |
金額の重なりは、A案のみ3.6兆円、重複26.9兆円(A案の88%・B案の64%)、B案のみ14.8兆円。頭数は4.2倍でもカネは1.4倍。カネの主戦場は両方に入る大口で、上位にはNTT・楽天グループ・LINEヤフーが両案に並びます。販管費はそのセグメントで販売・管理に動くお金のプールで、販管費率の高いA案はマーケティング関連のサービスなら予算の厚い相手と読めます。
罠が2つ。経済センサスの売上(活動調査)は市区町村 × 大分類でしか取れず、A案は広告業の属する大分類の売上が丸ごと乗って52.9兆円と出ますが、市場規模ではありません。もう一つ、金額のカバレッジ率(A案96.7%・B案95.7%)は上場企業の本社が東京に集中しているだけで、連結売上は全国・海外分を含みます。「東京に本社を置く上場企業の規模」と読んでください。
ツールで確かめてみる 右側のベン図を「上場売上高」にすると金額の重なりが、「上場企業のコスト構造対比」で原価率・販管費率・営業利益率の中央値が出ます。
7. 推移で「集積が進む市場か」を確かめる
カバレッジ率が、いま6割あるとして、増えているのか減っているのか。経済センサスは5時点(2009〜2024年)あるので、東京都と全国の事業所数の比を時点ごとに出せば分かります。
事業所数(全規模計)は2009→2021でA案+23.2%、B案+28.1%。カバレッジ率は両案とも約31%から約35%へ(2009→2024)で、東京集積は進んでいます。2024年は集計の定義が変わったので参考値。推移は全規模計で、50人以上の59%・49%とは集計の条件が違います。業種別の推移はデータ記事([公開時にリンク])で更新していきます。
ツールで確かめてみる 「TAMを重ねて表示」中は、ベン図の下の折れ線が「全国カバレッジ率の推移」になります。
8. SOMは統計からは出ない:シェア仮定か営業キャパの逆算
SOM(狙う市場のうち、自社が実際に獲れる件数)を統計から出す方法はありません。やり方は2つで、両方やって突き合わせます。シェア仮定(SAM × 想定シェア)と、営業キャパの逆算(営業人数 × 年間商談数 × 受注率)。
仮定:営業3人、年120商談/人、受注率25%、顧客あたり年間単価120万円。
| A案:755件 | ユニオン:3,406件 | |
|---|---|---|
| シェア仮定 3% | 約23件 | 約102件 |
| 営業キャパ(3 × 120 × 25%) | 90件 | 90件 |
| 営業キャパ ÷ SAM | 11.9% | 2.6% |
営業キャパの90件をA案だけで埋めるとシェア11.9%が必要で、新規参入には無理筋。ユニオンなら2.6%で現実的です。「B案を足す」判断は、事業所数が大きいからではなく、営業キャパを埋めるにはA案だけでは足りないから、で決まります。
金額は単価を掛けるだけ。事業所数に単価を掛けて積み上げるボトムアップの計算で、業界全体の売上から比率で割り出すトップダウンより根拠を追えます。単価120万円なら、TAM(1,277件)約15.3億円、SAM(A案)約9.1億円、ユニオン約40.9億円、SOM(90件)約1.1億円。単価は自社の実績値で置き換えてください。
9. まとめ:手順チェックリスト
- ICPを「中分類 × 従業員規模 × 商圏」に翻訳した
- TAMの範囲を「業種と規模は固定、地理だけ全国」と決め、SAMとカバレッジ率を出した
- 候補を2案、6Rに沿って頭数・地理・カネ・推移で比べ、重複を確認した
- 重複を一方に寄せ、ユニオンをリストの実数にした
- SOMをシェア仮定と営業キャパで試算して順位を決め、単価で金額にした
題材の結論は「B案を足す」。理由は営業キャパ。大口はABMで別建て、地理を広げるなら情報サービス業側から。
数字について
政府公式のオープンデータを条件固定で集計した一次情報です(生成日2026年9月5日、推計モデルなし)。統計層=総務省「令和6年経済センサス‐基礎調査」(市区町村 × 産業中分類 × 常用雇用者規模、事業所単位)、売上層=「令和3年経済センサス‐活動調査」(市区町村 × 大分類、参考値)、上場層=金融庁EDINETの有価証券報告書(連結、本社所在地で商圏に帰属)。限界:金額は上場合算で非上場を含まない、時系列は全規模計、上場企業の業種照合は推定(大分類近似ならA案732社・B案491社)。集計はTAM/SAMダッシュボード、元データはe-StatとEDINET。引用時は条件(商圏・業種・規模)と生成日を添えてください。
出典:総務省「令和6年経済センサス‐基礎調査」(e-Stat)を加工して作成/総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」(e-Stat)を加工して作成/金融庁「EDINET」の有価証券報告書および「EDINETコードリスト」を加工して作成/経済産業省「gBizINFO」を加工して作成
