新規1社にいくらまでかけてよいか|BtoBのCAC回収期間とLTVを粗利で出し、「何年で取り返すか」を経営と決める
coconecoLead Manager公開日: / 更新日:
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新規顧客の獲得にいくらまでかけてよいかを聞かれても、LTV/CACの目安は月額課金のSaaS向けが多く、受注ごとに取引する会社にはそのまま当てはまりません。経営が知りたいのは、1社にかけた費用を何年で取り返せるかです。
この記事では、1社の年間粗利と取り返す年数から獲得コストの上限を出す計算と、年数の決め方を紹介します。
- 新規1社にかけてよい獲得コストの上限の式と、計算例
- 1社の年間粗利を、2年目以降の取引まで受注データで確かめる方法
- 取り返す年数の決め方と、上限を超えた施策の扱い
新規1社にかけてよい上限は「1社の年間粗利×取り返す年数」で決まる
新規1社の獲得にかけてよい費用の上限は、次の式で出します。
獲得コスト(CAC)の上限 = 1社あたりの年間粗利 × 取り返す年数
実際のCACが上限の内側に収まっているかは、回収期間で確かめます。
回収期間(か月)= CAC ÷ 1社あたりの月の粗利
上限をLTVから逆算する方法もあります。ただ、LTVは「取引が何年続くか」という見込みの上に成り立つ数字です。LTVの5年分を獲得に使えば、5年目まで取引が続いてはじめて元が取れる計算になります。
経営陣が判断しやすいのは「何年待てば戻るか」のほうです。年数を先に経営陣と決めておけば、上限は掛け算で決まり、施策ごとのCACと比べるだけで判断できます。LTVは、上限をどこまで広げられるかの天井として横に置いておきます。
私は、上限に使う粗利と年数も、経理・財務と定義をそろえたうえで、自社の受注の実績から取るのがいちばん確実だと考えています。
計算例:年間粗利100万円の会社が1.5年で取り返すなら、上限は150万円
次の架空の会社で計算します(数値は説明のための例です)。
- 産業機械向けの部品メーカー。新規顧客1社との年間取引額は平均250万円(初回の受注を含む)、粗利率40%
- 新規顧客との取引は平均5年続く
- マーケの費用は外部に払う費用910万円と人件費370万円。マーケ経由の新規受注は12社
1社あたりの年間粗利は100万円、月の粗利は約8.3万円、LTV(粗利)は500万円です。取り返す年数ごとの上限は、次のようになります。
| 取り返す年数 | 獲得コストの上限 |
|---|---|
| 1年 | 100万円 |
| 1.5年 | 150万円 |
| 2年 | 200万円 |
| 3年 | 300万円 |
| (参考)5年=LTV | 500万円 |
この会社は、経営陣と「1.5年で取り返す」と決めています。上限は150万円です。この記事では、実際のCACと回収期間を、人件費を含めた費用で出します。
| 費用 | 金額 |
|---|---|
| 外部に払う費用 | 910万円 |
| 人件費 | 370万円 |
| 費用合計 | 1,280万円 |
| CAC(費用合計÷12社) | 107万円 |
| 回収期間(107万円÷8.3万円) | 12.8か月 |
CACの107万円は上限の150万円以内で、12.8か月で取り返せます。外部に払う費用だけで出すと、回収期間が短く見え、上限との比べ方が甘くなりやすくなります。費用は、外部に払う費用と人件費を別の行で示し、合計で判断するのが基本です。人件費の出し方は会社によって違うので、経理・財務に必ず確認してください。
回収期間は、受注した月から数えています。この会社では費用を払ってから受注まで4か月ほどかかるので、払ったお金が粗利で戻るまでは、人件費込みでおよそ17か月です。資金繰りを気にする経営陣には、この長さも添えておきます。
もう1つ見落としやすいのが、回収期間が12か月を超える意味です。12.8か月で回収するということは、2年目も取引が続くことを前提にした投資だということになります。次に確かめるのは、その2年目以降の粗利が本当に出ているかです。
1社の年間粗利は、新規で入った顧客の2年目以降の取引まで受注データで確かめる
上限の式でいちばんぶれやすいのは、1社あたりの年間粗利です。出し方によって、上限は低くも高くも出ます。
| 出し方 | 起きがちなこと | 使いどころ |
|---|---|---|
| 初回の受注額だけ | 2年目以降の保守・消耗品・補修部品・リピートが抜け、LTVを低く見積もる。回収できている施策まで止めてしまう | 継続の取引がほとんどない商材 |
| 既存顧客全体の平均 | 長く続いて取引額が大きくなった顧客に引っ張られ、新規の顧客には届かない高い数字になる | 上限には使わない |
| 直近数年に新規で入った顧客の、2年目以降の実績 | 件数が少ないと、年によってぶれる | 基本はこれ。件数が少なければ3〜5年分をまとめて出す |
数字は、営業の商談管理表の受注日と取引先名を、経理の取引先ごとの売上の明細と突き合わせて出します。新規で入った顧客のうち、2年目・3年目にも取引がある割合も、同じデータから出せます。この割合が、次に決める「取り返す年数」の根拠になります。
取り返す年数は「顧客が続く年数」と「会社が待てる年数」の短いほうに合わせる
取り返す年数は、次の3つを確かめて決めます。
| 確かめること | 見るデータ・相手 | 年数への効き方 |
|---|---|---|
| 新規の顧客が何年続いているか | 受注データ(2年目・3年目も取引がある割合) | 半分以上が2年目に離れているなら、回収は1年以内に置く |
| 会社が何年待てるか | 経理・財務、経営陣(資金繰り、中期計画の期間) | 中期計画が3年なら、その中で回収できる年数にする |
| 費用を払ってから受注までの期間 | 商談管理表の最初の接点の日と受注日 | 回収期間に足し、お金が戻るまでの長さとして説明する |
年数を延ばせば上限は上がります。そのぶん、取引が続かなかったときに取り返せない額も大きくなります。上限を上げたいときは、年数を延ばす前に、1社の粗利を増やす手(補修部品や消耗品の提案、追加の受注)を考えるほうが安全です。
外の目安としては、「LTV/CACは3倍以上」がよく引かれます。月額課金のSaaSで広まった目安で、解約率から取引の年数を出す前提に立っています。受注のたびに取引が続く会社とは、前提が違います。
私なら、外の目安を使うのは自社にデータがないときだけにします。そのときも仮の値と明記し、新規の顧客の2年目の取引が出そろった時点で、自社の年数と粗利に置き換えます。
上限を超えた施策は、実績のある施策と試している施策で判断を分ける
上限が決まったら、施策ごとのCACと比べて、次のように判断します。
| 状況 | 判断 | 次にやること |
|---|---|---|
| 全体は上限の内側だが、超えている施策がある | その施策の額を見直す | 2年分の費用と受注でCACを出し直し、それでも超えるなら額を減らすか、狙う顧客を絞る |
| 全体が上限を超えている | 年数を延ばす前に、続く割合を確かめる | 2年目の取引が続いていれば、年数を延ばすことを経営陣と合意する。続いていなければ費用を減らす |
| 試している新しい施策で、受注がまだ少ない | CACでは判定しない | 試す額と止める基準(例:12月までにリード10件・商談1件)で判断する |
| 上限を大きく下回っている | 増やす余地がある | 同じCACで受注を増やせるかを確かめ、増額を提案する |
受注が年に数件の施策は、1件の違いでCACが大きく動きます。展示会のように受注まで時間がかかる施策も、1年分だけで見ると不利です。こうした施策は、2年分の費用と受注で出します。
上限は、かけてよい枠を示す数字でもあります。上限を大きく下回っている施策があれば、使える枠が残っていると経営陣に示せます。実績のある施策と試している施策の予算の分け方は、マーケティング予算配分はどこに厚くする?防衛と攻撃の分け方と、導入期・成長期・安定期の比率 で解説しています。
経営陣に説明するときの一文
- 「新規1社の獲得にかけてよい上限は、1社の年間粗利100万円×1.5年で、150万円と置いています。今期の獲得コストは人件費込みで107万円、回収期間は12.8か月です。」
- 「12.8か月での回収は、2年目も取引が続く前提です。新規で入った顧客の2年目の取引を受注データで確かめ、来期の上限に反映します。」
まとめ
- 新規1社にかけてよい上限は、1社の年間粗利×取り返す年数で決め、回収期間で実績と比べる。
- 年間粗利は新規で入った顧客の2年目以降の取引まで受注データで確かめ、年数は顧客が続く年数と会社が待てる年数の短いほうに合わせる。
- 上限を超えたら、実績のある施策は額を見直し、試している施策は止める基準で判断する。
よくある質問
Q1. 「LTV/CACは3倍以上」という目安は、受注ごとに取引する会社でも使えますか?
A1. 自社にデータがないときの仮の値としてなら使えます。もとは月額課金の事業で広まった目安なので、新規の顧客の2年目以降の取引が出そろったら、自社の年数と粗利に置き換えます。判断の軸は「何年で取り返すか」に置きます。
Q2. CACに人件費は含めるべきですか?
A2. 含めるのが基本です。外部に払う費用と人件費を別の行で示し、合計で出します。外部に払う費用だけだと回収期間が短く見え、上限との比較が甘くなりやすいためです。人件費の出し方は会社によって違うので、経理・財務に必ず確認してください。
Q3. 営業の費用も、獲得コストに入れますか?
A3. マーケの施策どうしを比べるときは、マーケの費用だけでそろえます。会社全体で新規獲得の採算を見るときは営業の費用も含め、どちらで出したかを数字の横に書いておきます。範囲が混ざると、前の期と比べられなくなります。
Q4. 新規の顧客が少なく、2年目の取引のデータがありません。上限はどう決めますか?
A4. 保守の契約や消耗品の定期的な発注など、取引が続く根拠がある分だけを年間粗利に足して、仮に置きます。根拠がなければ初回の受注の粗利だけで上限を出し、1年以内の回収を目安にします。データが出そろう時期を決めて、そこで置き換えてください。
