マーケティング人材育成は『任せる順番』から|経験者が自分1人のチームで、1年で実務を手放す計画
coconecoLead Manager公開日: / 更新日:
目次
メンバーに仕事を任せられず、マーケの実務を責任者が抱えたままになっていることがあります。その状態が続くと、戦略を考えたり経営陣に説明したりする時間がなくなります。育成で本当に求められているのは、責任者が現場から離れる時間をつくることです。
この記事では、そのための育成計画の立て方を、任せる順番と教え方に分けて解説します。
- 育成計画で決めることと、進める順番
- 業務の種類ごとの、任せる時期の目安と教え方
- 「教えたのに動けない」「指示を待つようになる」を防ぐ教え方
育成計画で決めること:責任者の時間をどこまで空けるか
マーケの人材育成というと、研修の内容やスキルの一覧から考えがちです。しかし、マーケの経験者は責任者1人だけで、メンバーは未経験者ばかりというチームは珍しくありません。この状態で責任者が立てる育成計画は、「自分の実務を、いつまでに、どれだけ手放すか」の計画になります。
責任者が現場の作業に追われていると、施策の企画、予算の根拠づくり、経営陣への報告といった仕事が後回しになります。営業企画など別の仕事と兼務している場合は、なおさら時間が足りません。その結果、マーケ部門は「作業をする部署」と見られ、コストセンターのまま評価が上がらない状態が続きます。育成の目的は、メンバーのスキルを上げることそのものではなく、責任者がマネジメントに使える時間をつくることにあります。
育成計画では、次の5つを決めます。
| 決めること | 中身 |
|---|---|
| 手放す業務 | 責任者がいま抱えている実務のうち、何をメンバーに渡すか |
| 任せる順番と時期 | どの業務から、何か月後までに渡すか |
| 教え方 | 知識をどう伝え、例外の扱いを誰が決めるか |
| 任せられる基準 | 何ができれば「任せた」と言えるか |
| 足りない分の補い方 | 社内で育てきれない部分を、研修・採用・外注のどれで補うか |
期間は、短期ではなく中期で考えます。任せ始めた最初の数か月は、教える時間が増えるぶん、責任者の負担はむしろ重くなるからです。半年から1年で責任者の時間を空ける計画にしておけば、途中で「やはり自分でやったほうが早い」と引き戻されにくくなります。
育成計画を立てる順番
1. 自分の業務を書き出し、時間を測る
最初に、責任者自身が1か月に何の業務へ何時間使っているかを書き出します。感覚ではなく時間で出すのは、どれだけ空けられるかを数字で示せるようにするためです。
計算例(業務と時間は説明用の架空の数値です)
| 業務 | 月の時間 | 業務の種類 |
|---|---|---|
| 広告の入稿・レポートの更新 | 20時間 | 手順が決まっている |
| Webサイトの更新・記事の手配 | 20時間 | 手順が決まっている |
| 展示会・セミナーの準備と運営 | 25時間 | 例外の判断を含む |
| 問い合わせの振り分け・営業への引き渡し | 15時間 | 例外の判断を含む |
| 代理店・制作会社とのやりとり | 15時間 | 社外との調整・費用を伴う |
| 施策の企画・予算案づくり | 20時間 | 責任者が持つ |
| 経営会議の資料・報告 | 15時間 | 責任者が持つ |
| 部門間の調整 | 20時間 | 責任者が持つ |
| メンバーへの指導・相談 | 10時間 | 責任者が持つ |
| 合計 | 160時間 |
この例では、月160時間のうち95時間(約6割)が実務です。マネジメントに使えているのは65時間しかありません。
2. 任せる順番と時期を決める
書き出した実務を、判断の多さで分けます。判断が少ない業務から渡し、判断が多い業務ほど後にします。
| 業務の種類 | 例 | 任せる時期の目安 | 教え方の中心 |
|---|---|---|---|
| 手順が決まっている | 広告の入稿、レポートの更新、Webサイトの更新 | 1〜3か月 | 手順を一度見せ、手順書はメンバーが作る |
| 例外の判断を含む | 問い合わせの振り分け、展示会の運営 | 3〜6か月 | 判断の基準(なぜそうするか)を教え、例外の扱いはみんなで決める |
| 社外との調整・費用を伴う | 代理店・制作会社とのやりとり | 6〜12か月 | 判断の基準を教えたうえで、金額や条件の決め方をルールにする |
| 責任者が持つ | 施策の企画、予算案、経営への報告 | 手放さない | 数字の集計など、材料づくりだけを任せる |
上の計算例に当てはめると、責任者の実務時間は次のように減っていきます。
| 時期 | 手放す業務 | 責任者の実務時間 |
|---|---|---|
| いま | ― | 月95時間 |
| 3か月後 | 広告、Webサイトの更新 | 月55時間 |
| 6か月後 | 展示会・セミナー、問い合わせの振り分け | 月15時間 |
| 12か月後 | 代理店・制作会社とのやりとり(確認だけ残す) | 月5時間 |
最初の3か月は、教える時間が増えるため、指導・相談の時間が月10時間から20〜30時間に増えることも見込んでおきます。
3. 教え方を決める
教え方は、次の4つを基本にします。
- 知識は教え、ルールはみんなで決める。 業務の背景や目的、判断の基準は責任者が伝えます。例外が起きたときの対応は、メンバーと話し合って決めます。
- 手順書は責任者が作らず、メンバーに作ってもらう。 教わった側が書くことで、理解があいまいな部分が見つかります。質問が出るたびに、書いた本人が更新します。
- 説明は動画に残し、資料は最低限にする。 説明会や打ち合わせは録画し、生成AIで要約すれば、資料づくりに時間をかけずに済みます。
- できるだけ複数人に同時に教える。 「言った・言わない」を防げるうえ、メンバー同士で確認し合えるようになります。一人に教えるときは、録画を残します。
また、同じことを何度も教えるのは避けられない、と割り切っておきます。任せた直後に手が離れることは、ほとんどありません。繰り返し教える時間を最初から計画に入れておけば、途中で焦らずに済みます。
4. 任せられる基準を決める
「何ができれば一人前か」の基準がないと、責任者はいつまでも確認をやめられません。業務ごとに「一人でできる」「相談しながらできる」「まだできない」を分けて一覧にしたものが、スキルマップです。
「何ができれば一人前か」の基準がないと、責任者はいつまでも確認をやめられません。そこで、業務ごとに「一人でできる」「相談しながらできる」「まだできない」の3段階で、メンバーの状態を一覧にしておきます。これがスキルマップです。
例(メンバーと状態は説明用の架空のものです)
| 業務 | メンバーA | メンバーB |
|---|---|---|
| 広告の入稿・レポートの更新 | 一人でできる | 相談しながらできる |
| 問い合わせの振り分け | 相談しながらできる | まだできない |
| 展示会・セミナーの運営 | まだできない | 相談しながらできる |
一覧にしておくと、次にどの業務を渡せるか、誰に何を教えるべきかが一目でわかります。「一人でできる」になった業務から、責任者の確認を外していきます。
5. 足りない分を、研修・採用・外注で補う
社内で教えられない知識は研修で補い、育てる時間が足りない業務は採用や外注を検討します。何が足りないかで、補い方を分けます。
| 足りないもの | 補い方 |
|---|---|
| 自社にない専門知識(広告運用や分析の基本など) | 研修 |
| 自社の業務の進め方と、判断の基準 | 社内で教える |
| 育つまで待てない業務や、人手そのもの | 採用・外注 |
研修に出しても、自社の業務の判断基準までは身につきません。研修は、社内で教えきれない知識を補うもの、と位置づけておきます。
よくあるつまずき
「自分でやったほうが早い」と実務を抱え続ける
教える時間を考えると、自分で手を動かすほうが早いのは事実です。ただ、その判断を毎回くり返すと、責任者は現場の作業から離れられません。戦略やマネジメントの仕事は後回しになり、マーケ部門はコストセンターと見られたまま、浮上するきっかけを失います。
目の前の1件で比べるのではなく、半年後・1年後に自分の時間がどれだけ空くかで考えます。先ほどの計算例のように、実務時間の見通しを数字で持っておくと、教える時間を「投資」として説明できるでしょう。
説明すれば、できるようになると考える
業務の背景とやることを説明すると、メンバーはその場のやることはこなせます。ところが、想定外のことが起きると「その場合の対応は聞いていません」と止まってしまう。これは、やることの手順だけが伝わり、判断のもとになる知識が伝わっていないために起きます。
手順を増やして対応しようとすると、例外の数だけ説明が必要になり、きりがありません。教えるのは「なぜそうするのか」という判断の基準で、例外の扱いはメンバーと一緒に決めていきます。
責任者がマニュアルを作り込み、メンバーが受け身になる
質問が出るたびに、責任者がマニュアルに書き足していく。一見まじめなやり方ですが、続けるうちに「教えてもらっていません」「マニュアルがわかりづらい」という声が出てくることがあります。教える側と教わる側の役割が固まり、メンバーが受け身になっていくためです。
手順書は、メンバーに作ってもらいます。ルールも、みんなで決めたものであれば、自分たちのものとして守られやすくなります。
経営陣に説明するときの一文
- 「いま私の時間の約6割が実務です。1年かけてメンバーに任せ、予算や施策の判断に使う時間を増やします。」
- 「最初の3か月は教える時間が増えますが、半年後には私の実務時間を月95時間から15時間まで減らす計画です。」
まとめ
- 兼務の責任者にとっての育成計画は、自分の実務を「いつまでに、どれだけ手放すか」の計画です。
- まず自分の業務と時間を書き出し、判断の少ない業務から順に任せます。
- 教えるのは手順ではなく判断の基準です。例外の扱いはメンバーと一緒に決め、手順書はメンバーに作ってもらいます。
- 説明は動画とAIの要約で済ませ、できるだけ複数人に同時に教えます。
- 何度も教えるのは避けられないと割り切り、半年から1年の中期で計画します。
よくある質問
Q1.経験の浅いメンバーには、何から任せればよいですか?
A1.広告の入稿やレポートの更新など、手順が決まっていて判断の少ない業務から任せます。例外の判断を含む業務や、社外との調整・費用を伴う業務は、判断の基準を教えてから後に回します。
Q2.マニュアルは誰が作るべきですか?
A2.教わるメンバーに作ってもらうのがおすすめです。書く過程で理解があいまいな部分が見つかり、質問が出たときも本人が更新できます。責任者が作り込むと、メンバーが受け身になりやすくなります。
Q3.育成にはどれくらいの期間を見込めばよいですか?
A3.責任者の実務を大きく減らすまで、半年から1年を見込みます。手順が決まっている業務は1〜3か月、例外の判断を含む業務は3〜6か月が目安です。最初の数か月は教える時間が増えるため、短期で成果を求めないことが大切です。
Q4.教えても「その場合は聞いていない」と言われるのはなぜですか?
A4.手順は伝わっていても、判断のもとになる知識が伝わっていないためです。業務の目的や「なぜそうするか」を教え、例外が起きたときの対応はメンバーと一緒に決めてルールにします。
Q5.研修に出せば、育成は進みますか?
A5.研修で補えるのは知識の部分です。自社の業務を任せられるようになるには、社内で任せる順番と教え方を決めておく必要があります。研修は、社内で教えきれない専門知識を補うために使います。
